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水戸地方裁判所日立支部 昭和47年(ワ)96号 判決

原告

日方ふく

被告

有限会社久慈浜タクシー

ほか二名

主文

被告らは各自、原告に対し、金二一七万一五一四円および内金一九七万一五一四円に対する昭和四五年八月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

(当事者が求めた裁判)

一  原告

被告らは連帯して、原告に対し、金六七八万五八四五円および内金六〇八万五八四五円に対する昭和四五年八月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告ら

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者が主張した事実)

第一請求原因

一  原告は、昭和四五年八月二日午後八時二〇分頃、日立市久慈町三九二三番地先路上において、被告幸男運転の普通乗用自動車に同乗中、交通事故により負傷した。

二  本件事故は、被告幸男の過失によるものであるから、同被告は不法行為者として、原告が蒙つた損害を賠償する義務がある。

被告幸男は、交通整理の行われていない交差点を、南高野方面から森山町方面へ直進するにあたり、交差点左右の見とおしが困難であつたから、左右道路の安全を確認して交差点に進入すべき注意義務があつたのにこれを怠つた過失により、左方道路から進行して来た鈴木康男運転の軽四輪自動車に自車を衝突させた。

三  被告会社は、被告車の保有者であるから、自賠法第三条により、損害賠償責任がある。

四  被告日出男は民法第七一五条第二項による代理監督者として賠償責任がある。

五  原告が蒙つた損害

(一) 治療費

協同病院 金一六九〇円、県立中央病院 金四三〇円、水戸日赤病院 金二三〇〇円、林整形外科 金一八〇〇円、島崎病院 金五八一五円、谷河原ほねつぎ院 金七万四四六〇円、村上スツポン本舗 金七〇〇〇円、白米鉱泉 金二万一六五〇円、福島県石川郡石川町鉱泉旅館八幡屋 金五万六八〇円(昭和四九年二月一一日から四月二二日までの間前後三回分)、同八幡屋 金一万四八六〇円(昭和四九年七月二二日から二六日までの分)、茅根病院 金一万七〇四〇円(昭和四九年一一月一四日から一九日までの入院費)。

(二) 診断書代等

日立港病院 診断書二通 金六〇〇円、井村外科医院 診療報酬明細書 金二〇〇〇円、茅根病院 診断書 金一〇〇〇円。

(三) 交通費

日立港病院 昭和四六年一月五日から四七年八月末日までバス電車賃 金一万三三八〇円、島崎病院 バス 金一八四〇円、谷河原ほねつぎ院 電車バス一日金一九〇円の一八二日分 金三万四五八〇円、日赤病院 金三四〇円、友部病院と中央病院 金一五七五円、林整形外科 金四五〇円、白米鉱泉 電車ハイヤー三回分 金四二六〇円。

(四) 入院中の付添看護費

日立港病院と井村外科に入院中、昭和四五年八月四日から九月一六日まで四四日間、原告の娘日方初江が付添つたので、これを一日金一五〇〇円と算定すると、金六万六〇〇〇円。

(五) 入院雑費

井村外科医院二八日間、日立港病院一二二日間入院し、一日金三〇〇円として合計金四万五〇〇〇円。

(六) 休業損害

原告は横浜容器工業株式会社日立工場で工員として勤務し、昭和四四年中は賞与を含めて月平均金三万四五二五円の収入があつたが、事故後欠勤し、昭和四七年八月三日には、職務遂行不能の故をもつて解雇され、その間給与は支給されなかつたので、事故から解雇まで二七ケ月分の給与額金九三万一一七五円を休業のため得られなかつた。

(七) 原告の夫の休業損害

原告の夫稲吉は常磐鋳造所に勤務していたが、原告の受傷のため、昭和四五年八月二日から一三日まで欠勤して、原告の入院準備、看護その他家族の世話に当り、当時の日給は金一八〇〇円であつたから、合計金二万一六〇〇円の損害を蒙つた。

(八) 逸失利益

原告は受傷前は健康で、七年間前記会社で肉体労働に従事していたが、受傷のため、殆んど回復の見込のない頭痛、めまい、疲労感、左頸部肩関節部痛などの頸椎捻挫の後遺症があり、肉体労働によつて賃金を得ることは不可能である。

原告は事故当時四六才であり、六三才まで稼働可能だつたものであるが、原告の症状に鑑みると、控え目に考えても今後五年間は稼働能力なく、その後の一〇年間は稼働能力喪失率は五割である。

原告の年間収入は約四〇万円であるから、中間利息を控除して現価を求めると、最初の五年間については、四〇万円×五年×〇・八の算式により金一六〇万円となり、その後の一〇年間については、四〇万円×一〇年×〇・五七一の算式により金二二八万四〇〇〇円となつて、合計金三八八万四〇〇〇円の得べかりし利益を喪つた。

(九) 慰藉料

原告は受傷前は健康で就労によつて生計を維持していたところ、受傷のため一五〇日間入院し、退院後も昭和四五年八月三一日から四七年八月三〇日までの間、日立港病院に一六二日、谷河原ほねつぎ院に一八二日の合計三四四日間通院し、又、昭和四八年三月、一二月、四九年一月から四月、七月など苦痛の甚しいときには入湯治療に努め、なお前記のような後遺症状に苦しめられているものである。

この苦痛を慰藉するには一般に認められている算出方法によるときは、重傷に価するものとして、入院一ケ月金一五万円として五ケ月分金七五万円、通院一ケ月金七万円として二四ケ月分金一六八万円のほか、後遺障害一二級に該当する慰藉料四〇万円を合計した金二八三万円であるものと算出されるので、これを控え目に金二五〇万円と算定する。

(一〇) 損害填補

原告は後遺障害補償金八四万円を保険会社から受領し、被告会社から損害金の一部として金七〇万五〇〇〇円、付添看護費の一部として金二万円の支払を受けたので、この合計金一五六万五〇〇〇円を損害額から控除する。

(一一) 弁護士費用

原告は原告代理人に本訴提起を委任して着手金一三万円を支払い、一審判決時に認容額の一割にあたる金員を報酬として支払う約定であるところ、これを合算して合計金七〇万円とする。

第二請求原因に対する答弁

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実は争う。

三  同第三項の事実は認める。

四  同第四項の事実は争う。

五  同第五項の事実中(一〇)の事実は認め、その余の項の事実は争う。休業損害について、昭和四七年一月以降は治療経過からみて欠勤の必要は認められない。逸失利益について、原告の身体障害等級は一二級に該当するのであるから、労働能力喪失率は一四パーセントにとゞまるべきである。

第三抗弁

一  休業補償について、被告会社は原告と交渉のうえ、昭和四五年八月分から毎月金三万円宛支払うことゝし、これを昭和四七年七月分まで支払い、同年八月分は病状軽快のため金一万五〇〇〇円として、合計金七三万五〇〇〇円を弁済した。又、昭和四七年八月一日、原告と被告会社の代理人飛田昇との間に、原告の病状軽快に鑑み、原告の休業補償については昭和四七年八月分までゞ打切る旨の合意が成立し、休業補償について和解がなされたもので、休業補償分は完済された。

二  被告会社は原告に対し、昭和四五年九月二六日、看護付添費として金二万円、昭和四六年一月八日、氷代など雑費として金一万円、その他入院雑費として金一万円を支払い弁済した。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  請求原因第一項、第三項の事実は当事者間に争いがない。

二  被告幸男の不法行為責任について検討するに、被告幸男本人尋問の結果によれば次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

被告幸男は被告車タクシーに原告を同乗させ、東西に走る臨港道路と南北方向道路とが直角に交差する交差点を、南から北へ通過しようとした。同交差点には信号機は設置されておらず、南北道路の幅員は東西道路の約三分の二であり、交差点に進入する入口付近の左側(西方)には看板があつて、同方向の見とおしが妨げられている。

被告幸男は、交差点入口で一旦停止し、西方道路から訴外鈴木の運転する乗用車が進行して来るのを認めたが、看板に妨げられて充分な確認をしないまゝ、これが遠方にあるものと判断し交差点に進入したところ、進入後、鈴木車が四・五〇KMの速度で意外に接近していることを知り、交差点を先に通過しようとしたが、被告車助手席ドア付近に鈴木車前面が衝突した。

右事実によれば、被告幸男は、交差点に進入する場合には交差道路を進行する車両との安全を確認して進入すべき注意義務があるのに、西方道路から進行して来る車両があることを知りながら、その車両の接近状況の判断を誤り、その直前を通過できるものと考えて交差点に進入し、本件事故を発生せしめたものであるから過失責任があることは明らかであり、不法行為者として、原告が蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

被告らは、本件事故の責任の大半は鈴木車にあるというのであるが、被告幸男に右のように過失がある以上は、訴外鈴木にも過失があるとしても、被告幸男の原告に対する全面的な賠償責任に消長をきたすものではないから、被告幸男の責任程度、或いは、被告幸男と訴外鈴木の責任割合について判断する必要はない。

三  被告会社が被告車の保有者であることは当事者間に争いがないので、被告会社は自賠法第三条により、原告が蒙つた損害を賠償する責任がある。

四  被告日出男の代理監督者としての賠償責任の成否を検討する。被告幸男、被告代表者兼被告日出男各尋問の結果によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

被告日出男はタクシー営業を業とする被告会社の代表取締役であり、被告会社は本件事故当時、四、五人の運転手を雇つたほか、被告日出男の長男正男、被告日出男の二男被告幸男も運転手として働き、かつ被告日出男と同居していた。

被告会社の運営には主として長男正男があたり、被告日出男の妻易子も経営面にかゝわり、事務処理にあたつていた。被告日出男は営業が多忙なときには自らも運転して営業に従事するほか、タクシーの無線傍受、連絡などにあたつていた。

右事実によつてみるに、民法第七一五条第二項にいう代理監督者は、現実に被用者の選任、監督を担当していた者をいうのであるが、客観的にみて選任監督を現に担当すべき職務関係にある者をも含むものであつて、そのような具体的な職務関係にある者が実際にはこれを怠つていたからといつて、この責任を免れるものではない。そして、被告日出男は被告会社の代表取締役であり、小人数の、家族を中心としたタクシー営業で、被告自身も営業に従事し、被告会社の被用者たる被告幸男とは同居の親子という密接な関係にあるのであるから、被告日出男は、代表取締役として現実の具体的関係において被告幸男を監督すべき関係にあつたものといわねばならない。とすれば、被告日出男は被告会社の代表監督者として、被告幸男の不法行為によつて原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

五  原告が蒙つた損害

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は本件事故により、頭部打撲、脳震とう症、左肘、左胸部打撲傷、右膝打傷、頸椎捻挫鞭打症の傷害を受け、次のような治療、療養をした。

井村外科医院 四五年八月二日から同月三一日まで入院。

日立港病院 四五年八月三一日から一二月三〇日まで入院一二二日間、その内四五年八月三一日から九月一三日まで要付添、同年一二月三一日から四七年七月三一日まで通院、実日数一六二日。

林整形外科病院 四六年二月四日診療。

茨城県協同病院 四六年二月九日、同月二七日診療。

嶋崎病院 四六年三月中に九回診療。

村上スツポン本舗 四六年三月中にスツポンの生血購入。

谷河原ほねつぎ院 四六年四月一日から四七年八月三〇日まで通院、実日数一八二日。

県立友部中央病院 四六年一〇月二九日診察。

水戸赤十字病院 四七年六月一〇日診察。

福島県勿来白米鉱泉 四八年三月、一二月、四九年一月療養。

福島県石川郡鉱泉八幡屋 四九年二、三、四月、七月療養。

茅根病院 四九年一一月一四日から一九日まで入院。

右のうち、井村外科病院は事故後収容されたもの、日立港病院は専門医であるとして転院したもの、林整形外科病院、茨城県協同病院、嶋崎病院、水戸赤十字病院は、治療経過が思わしくないとの自己の判断で診療を求めたもの、村上スツポン本舗での購入は人にすゝめられたもの、谷河原ほねつぎ院での治療は病院での治療が思わしい成果がないため、人にすゝめられて別様の治療を求め、かなり自覚症状軽快の結果が得られたものでかつ日立港病院担当医もこの治療を相当性を否認しないもの、県立友部中央病院は原告が受診科を誤つて診察を受けたもの、白米鉱泉、八幡屋は治療経過がはかばかしくないため、谷河原ほねつぎ院の示唆もあつて、症状の重いときに一ないし三日程度湯治に赴き、症状軽快の自覚が得られたもの、茅根病院はその頃急激に症状の悪化があり、救急車で収容されて治療を受けたものである。

右診療の経過、各医院等の診療を受けたいきさつ、診療、療養の結果に鑑みると、井村外科医院、日立港医院、谷河原ほねつぎ院、茅根病院での各診療および白米鉱泉、八幡屋での療養は受傷に対処する診療として相当なものと認められるが、その余の診療は、原告のほしいまゝな判断による診療であつて、相当性に乏しいので、これらを被告らの賠償すべき責任範囲の診療であるものとは認められない。

(一)  治療費

前掲証拠によれば、次の各治療費を要したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

谷河原ほねつぎ院 金七万四四六〇円

白米鉱泉 金二万一六五〇円

八幡屋 金六万五六四〇円

茅根病院 金一万七〇四〇円

(二)  診断書代等

前掲証拠によれば、次の各診断書代などを要したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

日立港病院 診断書代 金六〇〇円

井村外科医院 診療報酬明細書料 金二〇〇〇円

茅根病院 診断書代 金一〇〇〇円

(三)  交通費

〔証拠略〕によれば、各病院などの通院に次の交通費を必要としたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

日立港病院 片道バス三〇円、電車二〇円、一六二日通院、金一万六二〇〇円、内金一万三三八〇円請求。

谷河原ほねつぎ院 一往復バス、電車一九〇円、一八二日通院、金三万四五八〇円。

白米鉱泉 電車、タクシー一往復金一四二〇円、三回、金四二六〇円。

(四)  入院中の付添看護費

〔証拠略〕によれば、原告が井村外科医院と日立港病院に入院中である昭和四五年八月四日から九月一三日まで四一日間、原告の症状は付添看護を必要とし、原告の子日方初江が仕事を休んで付添看護にあたつたこと、同女の日当は約金一五〇〇円であつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。とすると、金六万一五〇〇円を付添看護費として認める。

(五)  入院雑費

〔証拠略〕によれば、原告は井村外科医院に二八日間、日立港病院に一二二日間入院したことが認められ、これに入院雑費一日金三〇〇円を要することは公知の事実であるから合計金四万五〇〇〇円を要したものと認める。

(六)  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告は受傷当時、横浜容器工業株式会社日立工場に工員として勤務し、昭和四四年中は、賞与を含めて、合計金四一万四三〇二円(一ケ月平均金三万四五二五円)の収入を得ていたが、本件受傷後欠勤を余儀なくされ、受傷のため就労不能を理由として、昭和四七年八月三日に解雇されたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

とすると、原告は昭和四五年八月三日から昭和四七年八月三日まで二四ケ月間の得べかりし給与を受傷のため支給されることがなかつたのであるから、合計金八二万八六〇〇円の休業による損害を蒙つたものである。

(七)  原告の夫の休業損害

〔証拠略〕によれば、原告の夫である稲吉は、原告の入院中に原告を訪れるため、その勤務を欠勤したことが認められるが、前認定のとおり、原告には付添として、原告と稲吉の娘が看護にあたつていたのであり、原告の症状の程度から考えても、稲吉の欠勤を強いるほどのものであるとは考えられないので、稲吉の欠勤による損害をもつて、被告らの不法行為と相当因果関係があるものと認めることはできない。

(八)  逸失利益

〔証拠略〕によれば次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は受傷前は健康で、横浜容器工業株式会社日立工場で、ドラムかん洗浄、塗装などの仕事に従事し、前認定のような収入を得ていたものであるが、受傷後、その症状のため就労にたえず、就労不能の理由で、昭和四七年八月三日に解雇されその以後も、頭痛、めまい、左頸部、肩関節痛などの頸部捻挫後遺症が残存し、頑固な神経症状が残つて、昭和四七年五月には、後遺障害等級一二級の認定を受け、家事労働はできるが、従来のような労働には耐えられない状態であり、回復の見込はほとんどない。右会社は五五才定年制をとつており原告は大正一二年一〇月二三日生れである。

逸失利益の算定は、労働能力喪失率に依拠することが相当な場合が多いが、本件の場合、原告の後遺障害等級による労働能力の喪失割合は低いものであるのに拘らず、原告は現に、症状を原因とする労働不能の理由によつて解雇され、就労復帰できなくなつているのであるから、障害等級を基準とした能力喪失率をもつて、直ちに逸失利益の算定根拠とすることは相当でない。これら前認定の事実を参酌すると、原告は解雇されたときから、前記会社の定年である五五才にいたるまでの約七年間、その得べかりし収入の五割を、受傷のため喪つたものとすることが相当である。とすると、年収金四一万四三〇二円×〇・五×五・八七四(利率年五分の割合によるホフマン式現価率)の算式によつて、金一二一万六八〇四円が得られ、これが原告の逸失利益であるものと認められる。

(九)  慰藉料

前認定の本件事故の態様、受傷の部位程度、入院、通院の期間、後遺障害の程度など諸般の事実によれば、原告が本件事故による受傷によつて、相当の精神的肉体的苦痛を受けたことが容易に認められるところ、原告のこの苦痛を慰藉するには金一二〇万円をもつてすることが相当である。

(一〇)  損害填補

原告が補償金八四万円を保険会社から受領し、被告会社から金七二万五〇〇〇円を受領し、この合計金一五六万五〇〇〇円を損害填補に充てたことは当事者間に争いがない。

(一一)  弁済の抗弁について

被告らは、右のほか、被告会社は金五万円を休業補償費、氷代などとして弁済したと主張しているので検討するに、〔証拠略〕によれば、被告会社は原告に対し、休業補償費、付添看護費、雑費などゝして総計金七七万五〇〇〇円を支払つたことが認められるので結局、当事者間に争いない前記金員のほか、被告ら主張にかかる金五万円も弁済されているものである。

(一二)  弁護士費用

原告が本件訴訟を原告代理人弁護士に依頼したことにより、相当の着手金、報酬などの弁護士費用を要することは明らかであるところ、その費用のうち判決認容額の約一割の限度において、不法行為と相当因果関係があるものと認める。とすると、(一)ないし(六)、(八)、(九)の合計金三五八万六五一四円から(一〇)(一一)の合計金一六一万五〇〇〇円を控除した金一九七万一五一四円の約一割金二〇万円を限度で被告らに賠償させるべきである。

六  休業補償打切り合意の抗弁について

〔証拠略〕は、昭和四七年八月一日に飛田きよが原告に八月分休業補償金一万五〇〇〇円を支払い、同時にこれをもつて休業補償金打切りの合意が成立したとする被告らの主張に添うものであるが、〔証拠略〕に照らすと、打切りについて原告が同意したか否かは疑わしく、飛田きよの一方的な申し出にとどまつたのではないかと認められるので、この抗弁は採ることができない。

七  以上のとおりであるから、被告幸男は不法行為者として、被告会社は自賠法第三条にもとづいて、被告日出男は民法第七一五条第二項によつて、第五項(一)ないし(六)、(八)、(九)の合計金三五八万六五一四円から(一〇)(一一)の合計金一六一万五〇〇〇円を控除しこれに(一二)の金二〇万円を加えた金二一七万一五一四円と、このうち(一二)の金二〇万円を控除した金一九七万一五一四円に対する不法行為の日である昭和四五年八月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の請求はこの限度において理由がある。

よつて、原告の被告らに対する請求を右の限度において認容しその余の請求をいずれも棄却する。そのほか訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条但書、第九三条第一項但書を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用する。

(裁判官 田中昌弘)

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